海域アジア・オセアニア研究
Maritime Asian and Pacific Studies
東洋大学拠点

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【開催報告】みんぱく創設50周年記念国際シンポジウムに参加して

【開催報告】みんぱく創設50周年記念国際シンポジウムに参加して

2024.6.7

研究活動


 

みんぱく創設50周年記念国際シンポジウムに参加して

 

文筆:中野真備(NIHU・東洋大学拠点)

 

 みんぱく創設50周年記念国際シンポジウム「海域からみる人類の文化遺産」が、2024年5月11日(土)・12日(日)の日程で開催された。本シンポジウムは、国立民族学博物館が主催となり、人間文化研究機構海域アジア・オセアニア研究(MAPS)国立民族学博物館拠点および東洋大学拠点の共催で、オンライン配信と併せて国立民族学博物館にて開催された。本拠点からは、竹川大介教授(北九州市立大学・研究分担者)、中野真備特別研究助手(NIHU・東洋大学拠点研究員)、明星つきこ氏(日本学術振興会特別研究員PD、NIHU・東洋大学拠点研究員)、河野佳春准教授(弓削商船専門学校、研究協力者)が参加した。
 本シンポジウムは、従来の人類学や考古学、地域研究では陸からの視点による研究が主流だったことをふまえ、海域アジア・オセアニアにおける有形・無形の文化遺産をめぐる現状と課題についての検討を通して、海域の視点から新たな研究の展開を構想しようとするものである。登壇者は東アジア、東南アジア、オセアニアの各国から集まり、海外からの登壇者が過半数を占める盛況な国際シンポジウムとなった。
 1日目の発表では2つのセッションが設けられた。「有形文化遺産の現状と博物館」セッションでは、文化遺産の保護に関わるインドネシアおよびマレーシアの研究者らが3名登壇した。博物館における有形文化遺産を保存することの課題や、これらを活用するための取り組みなどが議論された。「オセアニアのカヌーと文化復興」セッションでは、オセアニアの人類学者、NPO法人、航海者、映像ディレクターなど様々な立場から4名が登壇した。自身が航海者であり、同時に人類学者やNPO法人として活動する登壇者からは、在来知としての航海術に関する具体的な報告がなされた。
 2日目の発表では、「樹皮布とカジノキ-起源・伝統・アート」と題して、オーストロネシアの樹皮布に関する報告があり、大学院生や研究者、アーティスト、博物館関係者、映画監督ら7名が登壇した。樹皮布の製作の技法とその変容、芸術性、素材となるカジノキの遺伝子からみる人類の移動と拡散など、学術的研究のみに留まらない議論が展開された。
 考古学的時間軸から民族誌的時間軸までを貫いて海域世界における人類の文化遺産を捉えようとするとき、今日の国や地域の枠組みを超えた人類の移動が基盤にある。本シンポジウムでは、対象となる国や地域だけでなく研究等の分野も多岐に渡るものであったが、それぞれの報告は孤立することなく互いに関連し合うものであった。他方で、一足飛びに移動や拡散といった文脈に位置付けることの難しさや、保存や活用といった取り組みが直面する現代的課題も示された。これらとどう向き合っていくのかということも、やはり「海からの視点」に基づいて議論されるべきであろう。

 

発表の様子
(2024年5月12日 撮影:中野真備)

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