海域アジア・オセアニア研究
Maritime Asian and Pacific Studies
東洋大学拠点

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調査レポート「瀬戸内海をあるく」(前編)の公開

調査レポート「瀬戸内海をあるく」(前編)の公開

2025.2.28

研究活動


本レポートは、2025年2月19日から24日にかけて、四国地域にて実施された現地調査等の成果を一部抜粋したものです。

 

瀬戸内海をあるく

 

文筆:明星つきこ(日本学術振興会・東洋大学)

 

2月19日(水)

 本調査では、四国および瀬戸内周辺沿岸部における生活および生業に関する情報収集を行った。また関連して主に水産漁業分野における当該地域の外国人材に関する調査も実施した。初日は岡山市から瀬戸大橋を経由し高知県へ向かい、瀬戸内海に位置する島々や沿岸部の自然景観と太平洋側に位置する高知県沿岸部の自然景観を概観・比較した。高知市内到着後は、県内に在住するインドネシア出身の大学関係者と面会し、高知県内におけるインドネシア人の数や生業、また日常的に集まるコミュニティ空間についてお話を伺った。特に現在高知市内には近年設立されたイスラーム教のモスクがあり、そこでの礼拝や宗教行事の開催、また日常的な集まりを通して、社会的な交流や相互扶助が実践されているとの情報を得た。さらに高知県内においてインドネシア人技能実習生が多く働いている近隣の漁港を紹介していただいた。

 

2月20日(木)

 昨日の聞き取り調査を踏まえ、午前中には高知市内にある二か所のモスクを訪問した。一つは県庁近くの大通り沿いに面したビル内にあり2024年に開設されたものである。もう一方のモスクはそこから15分ほど歩いた距離にある。二つ目のモスクは一つ目のモスクと運営母体は同じであり、より広い空間を確保するために新しく購入が予定されている場所である。現在は改修および移転作業中のためまだ一般には開かれていないが、今回は特別に代表の方に建物内を案内していただいた。構想・準備段階ではあるものの、本モスクでは将来的に礼拝所としてのみならず、ハラール食品の販売や各種イベントの開催等での活用も想定されており、近年増加傾向にある外国人材が日常的に集う空間になることが推察された。

また午後は漁業分野で働くインドネシア人技能実習生に関する情報を収集するため、昨日の聞取りで得た情報をもとに、高知市内から約10km西の沿岸部に位置する宇佐漁港へ向かった。宇佐漁港は伝統的にカツオの一本釣りやはえ縄漁が盛んに行われてきた地区である。近隣の釣具店の方のお話によると、元々は中国から来た漁船員が多かったが、10年ほど前からインドネシア人漁船員が増え、現在はほとんどがインドネシア人となっているという。ただしカツオ漁自体は年々縮小し、大型船ではなく現在は19トン前後の船が利用されている。

 

2月21日(金)

 瀬戸内海における生業および暮らしを視察するため、香川県観音寺港から西に約10km沖合に位置する伊吹島を訪問した。伊吹島は約1400万年前の瀬戸内火山活動によりできた島である。本島は燧灘に位置する地理的な特徴からイリコ漁に適した漁場を持ち、讃岐うどんには欠かせない伊吹イリコの生産地として知られている。本調査では、現地で海上タクシーを運行されている三好兼光さんに島内を案内していただいた。島内の漁港のみならず、イリコ加工場や八幡神社、学校跡地を利用して作られた伊吹島民俗資料館、ならびに島内数か所に設置されている現代アート作品およびそれらに関連した自然・文化的景観についても詳細にご紹介いただいた。本調査では、タイ漁に始まる伊吹島の漁業の変遷や北前船で繋がれた関西や九州を含めた瀬戸内周辺地域との交易史、また海に関する信仰や祭礼、さらに近年の瀬戸内国際芸術祭に関する事柄等、幅広く知見を広げることができた。海とともに暮らす人びとの生活技術や知識、およびその実践を間近に見聞きする機会となった。

 

記事冒頭の写真は伊吹島真浦港(2025年2月21日 撮影:明星つきこ)

 

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